プロジェクトストーリー
「XRミッション」の開発
仮想と現実が交差する
「XRエンタメ体験」を
オールインワンパッケージとして販売。
幅広い施設に導入することで
事業化を目指す。
2024年11月1日、東京ドームシティ アトラクションズ内に『XRミッション バトルワールド2045』がオープンした。
MR(複合現実)技術を使ったヘッドマウントディスプレイを装着してプレイする、
フリーローミング(自由歩行型)のシューティングアトラクションだ。
世界的に権威のある「Auggie Awards(オーギー アワード)」のVR部門最優秀賞を受賞するなど、
オープン前より国内外から多くの反響を呼び、オープン後の現在も高い人気を集めている。
果たして、同アトラクションはどのようにして生まれ、今後どのような展開をみせるのか。
プロジェクトのキーパーソン3名が、その真相を語った。
Member
Yoshihiro Anma安間 良浩
新規事業室 室長
1998年入社
Masaya Kirihata桐畑 誠也
新規事業室
2017年入社
Ryota Komiyama込山 諒太
アミューズメント部
2023年入社
※役職・内容は取材当時のものとなります
Index
- Chapter 1プロジェクト立ち上げの背景最先端技術を使ったアトラクションを活用し、バーチャルにおけるサービスを拡充する。
- Chapter 2プロジェクトの特徴・共同開発の舞台裏自社オリジナル、自社主導、そして外部展開。目指すのは、パッケージ化されたプロダクト。
- Chapter 3プロジェクトのターニングポイントプロダクトの特徴がオペレーションの足かせに。チーム一丸となって難局を乗り越える。
- Chapter 4成功へと導いた要因・これからの展望終始一貫した「現場主義」と「顧客起点」。商品として確立させ、グローバルに拠点を増やす。
- Chapter 5感動をつくるという仕事・就活生へのメッセージプロセスそのものが「感動をつくる仕事」であり、自分の意思こそが情熱ややりがいを生み出す。
プロジェクト体制
Chapter 1
プロジェクト立ち上げの背景
最先端技術を使った
アトラクションを活用し、
バーチャルにおけるサービスを
拡充する。
社内ではかねてより、部署長クラスの間でVRアトラクションの活用が検討されていたという。その狙いについて、新規事業室室長・安間良浩は次のように解説する。
「第一には、最先端の技術を使い、お客様に新しい感動を提供していくこと。第二には、バーチャルにおけるサービスを拡充させ、仮想空間を通じて東京ドームシティの価値向上をグローバルに図っていくということです」

幹部たちが今後に向けた戦略を練るなか、2023年も秋口に差し掛かったころだった。リニューアルを必要とするエリアが生じたこと、そのスペースが比較的手狭であったこと、折しも株式会社日本XRセンターとの出会いがあったこと。こうしたいくつかの偶然が重なり、日本XRセンターをパートナーに迎え、VRアトラクションの開発プロジェクトを立ち上げることを決定。安間がプロジェクトマネージャーにアサインしたのが、部下の桐畑誠也だった。桐畑は、当時の心境を正直に明かす。
「高揚感みたいなものはなく、他人事のようでした。それというのも私自身、ゲーマーのひとりとしてVRやAR、MRなどを使ったアトラクションがあると聞けば、足を運んでいました。ですが、なかなか満足のいく体験を得られず、どこか消化不良で終わっていました。それだけにVRアトラクションといわれても正直、ピンとこなかったのです」
しかし、桐畑のこの冷静さが、結果としてプロダクトとしての完成度を高め、桐畑自身をも変えていくことになった。さらに後半からチームに参加したアミューズメント部の込山諒太が、プロジェクトに転機をもたらした。込山は振り返る。
「桐畑さんたちが実現しようとするアトラクションに対し、運営を担う私たち部署の中には懐疑的な意見もありました。なぜなら、デバイスの使用方法やアトラクションのルールをお客様に正確にご理解いただき、同時に効率的に運営していくためのオペレーション構築の難易度が高いと感じられたためです」
しかし、プロジェクトに合流して込山は思ったという。この面白さはお客様にもきっと伝わるはずだし、ぜひとも伝えていきたい─。込山のこの想い、そこからの彼の仕事ぶりが、プロジェクトを一気にクライマックスへと導く原動力となっていくことになった。
Chapter 2
プロジェクトの特徴・共同開発の舞台裏
自社オリジナル、自社主導、
そして外部展開。
目指すのは、
パッケージ化されたプロダクト。
プロジェクトのメンバーは、社内5名、日本XRセンターも同程度の総勢約10名。プロジェクトの特徴は、桐畑の言葉を借りると次の3点に集約される。
- ①自社オリジナルのアトラクションを目指したこと。
- ②アトラクションとしてのコンセプトづくり、企画立案、体験設計、オペレーション検討、デザインなど、自社主導で取り組んだこと。
- ③当初から外部展開を視野に入れていたこと。これらの理由について、桐畑は次のように解説する。
「せっかくの新規アトラクション開発でしたので、事業としても新たな付加価値を創出したいと思いました。そのためには外部展開が重要であり、自社オリジナルで権利を管理し、自社主導によってパッケージ化したひとつのプロダクトとして完成させる必要があると考えました」
そのプロダクトの特徴も、最終的に次の3点に絞り込まれた。
- ①「MR技術」を活用すること。
- ②自由に動き回れる「フリーローム型」にすること。
- ③遊園地のワンデーパスでも利用できる「リーズナブル」な価格にすること。
「MR技術」についていえば、ヘッドマウントディスプレイを装着すると、現実世界が見える一方、その一部に仮想オブジェクト(VR)が存在するのが特徴だ。仮想と現実が交差するところに面白さがある。そもそもMR技術が市場で一般的になったのは、Meta社の新作デバイスMeta Quest3が2023年10月に発売されてからだ。ちょうど本プロジェクトが始動したタイミングでこのデバイスに出会ったことで、MR技術が当社のアトラクションのユニークポイントになるかもしれない、桐畑はそう考えたという。

また、「フリーローム型」についていえば、既存の国内XR施設の多くがXRの世界を静止して眺めるだけに留まっていた。空間を自由に動き回ってこそ、XRの面白さを体験できるのではないか─。これは桐畑のそれまでの実体験を踏まえた結論でもあった。そして、もっともこだわったのが「リーズナブル」の実現だったと桐畑は明かす。
「企画立案、体験設計の段階では、メンバーたちとともに関連施設に足を運びましたが、優れた施設であるほど高い料金設定となっていました。価格そのものに異論はありませんでしたが、日本国内ではまだまだVRの普及が進まないなか、料金が高いことでお客様がコアなファンに限られてしまっていることが気になりました。もし、当社が高品質なVR体験をリーズナブルに提供できれば、お客様の間口を広げ、業界全体にも好影響を与えられるのではないか。そう考えたのです」
とはいえ、言うは易く行うは難し。現に桐畑たちが導き出した3点の特徴を同時に満たす施設が皆無に等しかったのは、それを実現することが困難だったからだ。そのことを誰よりも理解していたのは、ゲーマーでもある桐畑自身だった。にもかかわらず、目指すべきアトラクションの姿が明確になるにつれ、それまでどこか熱を帯びていなかった桐畑の目の色が変わりはじめていったことを、上司の安間は見逃さなかった。
Chapter 3
プロジェクトのターニングポイント
プロダクトの特徴がオペレーションの
足かせに。
チーム一丸となって難局を乗り越える。
プロジェクトのコンセプトも固まり、プロダクトの方向性も決まった。そして、ここから込山らアミューズメント部もチームに合流。本プロジェクトは、いよいよ具体的なコンテンツを企画、開発するフェーズへと移行した。だが、ここでチームは正念場を迎えることになった。そのコンテンツが、なかなか定まらなかったのだ。桐畑は明かす。
「技術開発を担う日本XRセンターは、MR技術を起点に発想する。現場運営を担うアミューズメント部は、お客様の安全性やオペレーションの視点から提案する。企画・マネジメントを担う新規事業室は、外販を視野に入れた経営の観点で思案する……。つまり、それぞれが技術、現場、企画のプロフェッショナルであるがゆえに、意見は割れる一方でした」
それでもメンバーたちは、辛抱強く何度も議論を重ねた。持ち寄ったアイデアの差別化や実現可能性を、それぞれの見地から模索、検討。こうして浮上したのがシューティングアトラクションだった。「MR技術」の特長を直感的に体感でき、「フリーローム型」の面白さを味わえることが理由だった。お客様がチームを組んで楽しさを分かち合える仕立にすれば顧客体験の価値も向上し、遊園地で遊ぶ意義となる。事業性としても妥当だった。
しかし、懸念材料がないわけではなかった。お客様が使い慣れないデバイスを使用することのリスクや、自由に動き回ることによる接触や衝突などのリスクが容易に想像されたからだ。つまり、「MR技術」も「フリーローム型」もお客様にとってはリスク。そして「リーズナブル」であることもまた、リスクと言えた。桐畑は次のように解説する。
「高品質な体験をリーズナブルに提供するためには、アトラクションの回転率を上げる必要がありました。ですが、実際にオペレーションを担うスタッフたちがスピードを意識するあまり、自らの作業を誤れば、思わぬ事故を招きかねないことは明らかでした」
ようやく合意が見えてきたコンテンツ案だったが、顕在化する懸念材料はチームの空気を重くした。ところが、それを一変させたのがほかでもない、お客様やスタッフの安全を第一に考えることを任務とする込山だった。懸念材料がわかっているのなら、それを払拭する技術、顧客体験、オペレーションにすればよいではないか─。込山の考えに、他のメンバーたちは大いに勇気づけられた。そしてここから、プロジェクトは大きく動き出した。体験価値の創出、安全性の確保、回転率の向上、オペレーションの考案を同時並行で進めるという、まさにチーム一丸となってのプロフェッショナルとしての仕事が始まった。

たとえば、使い慣れないデバイスを使用するリスクは、待ち時間に流すコンセプトムービーを制作してルール説明や装備解説を行い、それをもってアトラクションへの期待値を高めるツールにした。ゲーム中の接触や衝突などのリスクは、規定値を超えるとデバイスが警告音を発する仕様とすることで、ゲームの臨場感を高める機能にした。アトラクション終了後にはスコアなどのデータを公開し、お客様が成功体験や失敗体験を仲間と共有しながら、自分たちで工夫して楽しみをつくれる機会とした。
また、高回転ゆえに懸念されたリスクについては、込山が奮闘した。アトラクションの運営に必要な人員と配置を割り出すと、配置ごとのオペレーションを自ら実行し、作業量に偏りがないかを細かく確認。各所要時間も秒単位で計測し、実際にオペレーションを担うスタッフの意見も聞き出しながら、全体最適を実現させた。
こうして世界でも導入事例がほとんどないMR技術を活用した、7分という短時間でも十分に楽しい物語性のある顧客体験が開発された。それは同時に、高回転(低価格)・高品質という従来にはないモデルとなった。一連の特徴は、そのままプロダクトとしての特長として世界的に高く評価され、2024年8月の「Auggie Awards」受賞へとつながった。
Chapter 4
成功へと導いた要因・これからの展望
終始一貫した「現場主義」と
「顧客起点」。
商品として確立させ、
グローバルに拠点を増やす。
プロジェクトの成り行きを見届けてきた安間はいう。プロジェクトマネジャーというのは、関係各社、経営陣、現場、そしてお客様と、異なる視点と利害をもつステークホルダーと向き合い、それぞれの意見を聞き、対立する要望を調整し、プロジェクトの全体像を見失わずにバランスを取ることが仕事。技術的な実現可能性、ビジネス上の収益性、そしてユーザー体験の質─。これらすべてを考慮し、最適な落としどころを見つけ出す作業は想像以上に難しいなかで、桐畑はそれを見事にやりきったと。
さらに込山の仕事ぶりについても指摘する。今回のプロジェクトにおいて日本XRセンターは、XR技術のプロだがユーザー体験をつくるプロではない。ユーザー体験をつくるにあたっては、一次情報に絶えず触れているスタッフの視点が欠かせないなかで、実際に起きている事象や現場の生の声、手触り感のある具体を、込山はこれでもかというくらいに語ってくれた。だからこそチームは、お客様や現場スタッフのリスクを徹底的に排除できたと。そしてプロダクトの開発が成功裏に終わった要因を、安間は簡潔に指摘する。

「終始一貫して『現場主義』『顧客起点』がブレることはなかった。この一点に尽きます」
2024年11月1日、『XRミッション バトルワールド2045』が晴れてオープン。翌2025年6月30日には、オールインワンパッケージ『XRミッション』として販売もスタートした。遊園地やテーマパークはもちろんのこと、商業施設やホテルなどにも導入可能であることから、各方面からの問い合わせも増えていると桐畑はいう。そして今後の展開について、次のように明かす。
「現状は『バトルワールド2045』しかコンテンツがない状況ですので、今後はコンテンツをもっと増やしていきたいと考えています。そうすることで『XRミッション』という施設型フリーロームVRをパッケージ商品として確立させ、グローバルに拠点を増やしていきたいと思っています」
その理由はもちろん、事業として成長させていくため。だが、個人的な理由はもうひとつ、別のところにあると桐畑は話す。それはVRで多くの人たちがどんどんつながり、連帯を生み出せれば、この世界はもっと多くの可能性に満ちあふれていくと思うからだと。
Chapter 5
感動をつくるという仕事・就活生へのメッセージ
プロセスそのものが
「感動をつくる仕事」であり、
自分の意思こそが
情熱ややりがいを生み出す。
込山にも、桐畑にも、忘れられないエピソードがある。
込山は、オープン後もしばらくの間、オペレーションの改善を地道に重ねていた。そんなある日のこと、ひとりのアルバイトスタッフから声をかけられた。「あそこの部分、オペレーションが改善されたことで、すごくやりやすくなりました!」。スタッフのためを思いやった仕事だったが、満たされたのはむしろ自分の方だった。込山はいう。
「心躍るような体験価値というものは、一方的に提供できるものではないんですよね。お客様や現場スタッフとともにつくり上げるものであり、プロセスそのものが『感動をつくる仕事』なのだと、今回のプロジェクトを通じてあらためて感じることができました」
そして込山は言葉をつなぐ。どんな仕事も突き詰めれば、誰かのための「課題解決」という根本は同じ。そして「何を解決したいのか」「誰のために働きたいのか」は自分の意思で決めるものであり、その「意思」こそが、情熱ややりがいを生み出していく。そのことを、就活生の皆さんにはお伝えしたいと。
桐畑は短期滞在で日本を訪れていた外国人高校生を預かるホストファミリーの両親が発した言葉が印象的だった。「たとえ言葉が通じなくても、一緒になって楽しめる体験の共有が、子どもたちの絆を深めたみたいです」。あまりにもうれしい言葉に、桐畑は自分たちが開発者であることを明かすと、子どもたちから口々に「楽しいアトラクションをつくってくれてありがとう!」という真っ直ぐな言葉をもらうのだった。桐畑は話す。
「『お客様が感動するような価値を届けること』は当社の理念であり、それが自分の仕事だと考えてきました。ですが、私たちはそれ以上に、お客様から感動をいただいているんですよね。自分たちは『感動をお客様と共有する仕事』という、とても幸せな仕事に就いているのだと、私はプロジェクトを通じて再認識することができました」
それだけに就活生の皆さんにも、これだけは伝えておきたいと言葉をつなぐ。かつて就活生だった自分は、社会人とは忙しくて、辛くて、それを我慢するものだととらえていた。けれども今は、社会人も楽しいなと心の底から感じていると。
